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札幌高等裁判所 昭和50年(ネ)208号 判決

控訴人

塚田敬三

控訴人

三瓶邦明

控訴人

佐々木勝二郎

右三名訴訟代理人

諏訪裕滋

被控訴人

平沼勝美

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一先ず、被控訴人の時効取得の主張について判断する。

(一)  被控訴人は、昭和二四年七月五日、控訴人塚田から当時の函館市大縄町九番の四宅地105.12平方メートル(31.8坪)(以下、これを「旧九番四」の土地という)を買受け同月八日所有権移転登記を経由し、遅くとも同日までに右土地の引渡を受け、そのころ同地と本件土地のうちの本件係争地(本件土地のうち、本件係争地と本件係争地以外の部分との境界即ち別紙図面(一)におけるロ点とハ点とを結ぶ直線は、現在、なまこトタン塀の設置によつて特定されている)にまたがつて別紙図面(二)記載の位置に本件建物を建築して所有して現在に至つていること及び被控訴人が旧九番の四の土地の占有を始めたときから、被控訴人が、控訴人塚田の所有であつた本件土地の本件係争地のうち、本件建物の南側土台の線(別紙図面(二)におけるK点とM点を結ぶ直線)の延長線によつて本件係争地を分断したとした場合(以下、右のとおりに本件係争地を分断する直線即ち別紙図面(二)におけるOMKNの各点を結ぶ直線を本件係争地分断線という)の北側の部分(別紙図面(二)でイロOMKNイの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分)を本件建物の敷地の一部として、占有して現在に至つていることは、当事者間に争いがない。本件係争地のうち、右分断線の南側部分(別紙図面(二)において、ニNKMOハニの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分)についての被控訴人の占有について案ずるに、〈証拠〉によれば、被控訴人が旧九番四の土地を買受けた当時、別紙図面(一)、(二)におけるニ、ハの両点を結ぶ直線上には、本件土地の近くに建つていた家屋の流し場からの下水用溝があり、被控訴人は、右買受時以降右下水用溝の北側を旧九番四の土地として、即ち右分断線の南側部分も、その北側部分と全く同様に、本件建物の敷地として使用してきたものであり、昭和三八〜九年ころ右分断線南側部分上、本件建物玄関の横に間口0.606メートル(二尺)、奥行1.818メートル(六尺)、本件土地とその南側隣地との境界線である別紙図面(一)、(二)におけるハ、ニ両点を結ぶ直線との間隔が狭いところは約二〇センチメートルしかなくなるような下屋を出したことが認められ、右事実と弁論の全趣旨(控訴人らは、当審口頭弁論終結の日まで、本件係争地中右分断線南側部分についての被控訴人の占有について自白していたものである。)によれば、被控訴人は、旧九番四の土地を買受け、その引渡を受けたときから、本件係争地の右分断線南側部分をも本件建物の敷地として占有して現在に至つたものと認められる。控訴人佐々木は当審本人尋問において、本件係争地の右分断線南側部分を同控訴人方から本件係争地の面する市道に出るための通路にしていたと供述するが、少くとも右下屋が出されて以降、右供述のようなことがあつたとは思われないし、右下屋が出されたときに、これにつき控訴人佐々木が被控訴人に異議を述べた形跡が全くないから、右下屋の出される前には、たとえ右供述どおりのことがあつたとしても、それは控訴人佐々木方の者が本件係争地の右分断線南側部分を通行するのを、被控訴人が好意的に黙認していただけのことと推認され、これによつて前示認定を動かすことはできない。

(二)  前段判示の事実によれば、被控訴人は、昭和二四年七月八日以降、現在に至るまで本件係争地を所有の意思をもつて善意、平穏且つ公然と占有したことが法律上推定される。

控訴人らは、被控訴人の本件係争地を占有する始めに、悪意であつたと主張し、また、被控訴人は、本件係争地を占有する始めに無過失であつたと主張する。当裁判所は、控訴人らの右主張は、採用できず、被控訴人の右主張はこれを採用しうるものと判断するが、その理由は、左記1のとおり改め、2のとおり付加するほか、原判決の理由説示三(原判決八枚目裏五行目から九枚目表末行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1イ  原判決書八枚目裏九行目の「大縄町九番の四の宅地」を「旧九番四の土地」と改める。

ロ  同九枚目四行目冒頭の「つて」の次に、「旧九番四の土地の範囲を」を挿入する。

ハ  同九枚目五行目冒頭の「への」の次に、「売却及びその」を挿入する。

ニ  同九枚目五行目の「代理人的立場で」を「代理人として」に改める。

ホ  同九枚目七行目「末尾添付図面(一)のニ、ハである旨」を「この溝であると言つて、別紙図面(一)においてニ、ハの両点を結ぶ直線に沿つて存在した前認定の不水用溝を」に改める。

2  右認定の事実によれば、被控訴人が、本件係争地の占有を始めるに際して、それが自己の買受けた旧九番四の土地ではない、他人(控訴人塚田)の所有地であることを知つていたものと認めることは、到底できない。

また、右認定の事実によれば、被控訴人が本件係争地の占有を始めるに際して、右の事実を知らなかつたことにつき過失はなかつたものと認めるのが相当である。

もつとも、この点に関しては、〈証拠〉によれば、旧九番四の土地から昭和四七年一〇月一四日に函館市大縄町九番一一の土地(12.72平方メートル=3.85坪)が分筆されて、(以下、右分筆後の据置地を「九番四の土地」という)右九番一一の土地はそのころ市道用地として函館市に買収されたこと、同所六番二の土地は昭和二四年七月当時は105.15平方メートル(31.81坪)あつたものであり、昭和四七年七月一〇日右土地から、同所六番七の土地(4.71平方メートル=1.42坪)が分筆されて(以下、右分筆前の同所六番二の土地を「旧六番二の土地」という)、六番七の土地がそのころ市道用地として函館市に買収されたこと(右、分筆と、買収については、当事者間に争がない)、旧六番二の土地のうち、別紙図面(一)のロ、ハ両点を結ぶ直線よりも東側の部分(以下、これを「旧係争地」という。)は約39.43平方メートル(約14.95坪)あつたことが認められ、旧九番四の土地と旧六番二の土地のうちの旧係争地部分を合わせた面積は、約144.53平方メートル(約46.75坪)であつたことが計数上明らかである。それゆえ、被控訴人が旧九番四の土地を買受けたときに、その買受地の範囲を実測したとすれば、旧係争地部分がその買受地の中に含まれないことを気付き得たものと考えられないではない。被控訴人が右のような実測をしたことを認むべき証拠はない。しかし、旧九番四の土地の所有者で売主である控訴人塚田の代理人である前記三戸晋平から、前記下水用溝の線が旧九番四の土地と旧六番二の土地との境界だと指示されて、旧係争地部分をその買受地たる旧九番四の土地に含まれるものとして本件建物を前記のように建てて旧係争地部分の占有を始めた被控訴人に過失がなかつたとはいえないというのは、被控訴人に対していささか酷な感があり、従つて被控訴人が右の実測をして買受地の範囲を確めなかつたことをもつて、被控訴人に、本件係争地占有の始め、過失がなかつたという前認定を覆すことはできない。

他に、以上の認定の妨げとなる証拠はない。

(三)  次に控訴人らの時効中断の抗弁について判断する。〈証拠〉によれば、控訴人塚田は、昭和三二年五月ころ固定資産税を滞納したため函館市からその所有にかかる土地を差押えられ、公売に付されたこと、その際、控訴人塚田は、旧六番二の土地のうち旧係争地部分以外の部分上に、その所有建物をはみ出して建てていた控訴人佐々木に対して、旧六番二の土地全部を買つてくれと頼んだが、控訴人佐々木は、旧係争地部分以外の部分だけなら買うが旧六番二の土地全部を買うことはこれを拒み、その際に旧係争地部分上に被控訴人所有の本件建物がはみ出して建つていることを控訴人塚田におしえたこと、それで控訴人塚田は控訴人佐々木に控訴人塚田の代理人として、被控訴人に対する交渉を依頼したことが認められる。そして原審における控訴人佐々木は、その際に控訴人塚田の代理人として、被控訴人に対して、本件係争地上の本件建物を収去して本件係争地を明渡すよう求めたと供述するが、控訴人佐々木が当時自分と同様の立場にあつた被控訴人に対して、果して右供述のようなきびしいことを言つたかは甚だ疑わしい。その際、控訴人佐々木は、被控訴人に対して旧係争地部分を控訴人塚田から買つてくれ、と頼んだだけではないかと思われる。かりに控訴人佐々木本人の右供述のとおりの事実があつたとしても、それは高々、民法一五三条にいう催告にすぎないから、それ以降六か月以内に仮処分、建物収去土地明渡請求訴訟の提起等民法一五三条所定の行為に及ばない限り、時効中断の効力は生じないものであり、控訴人らが、かかる行為に及んだことについての主張・立証はないから、控訴人らの右抗弁は採用できない。

(四)  以上認定の事実によれば、被控訴人が遅くとも本件係争地の占有を始めた昭和二四年七月八日から一〇年後である昭和三四年七月八日の経過をもつて本件係争地につき、民法一六二条一項所定の所有権取得時効が完成したものと認められる。

かりに、被控訴人が本件係争地占有の始め、善意たることについて過失があつたものというべきであるとしても、右占有開始の日から二〇年後である昭和四四年七月八日の経過をもつて本件係争地につき、民法一六二条二項所定の所有権取得時効が完成したものと認められる。なお、念のため言えば、被控訴人は本件において、本件係争地所有権の取得時効を援用し、民法一六二条二項所定の要件事実についても主張しているのであるから、右のように認定しても、被控訴人の主張していない事実を訴訟資料にしたことにはならない。

二(一)  ところで、控訴人三瓶、同佐々木の両名が昭和四七年九月一九日控訴人塚田から本件係争地を含む本件土地を買受け、同年一一月九日所有権移転(共有)登記を経由したことは当事者間に争いがない。

(二)  右の事実によれば、控訴人三瓶、同佐々木の両名は本件係争地の所有権を前叙の如く、時効取得した被控訴人に対する背信的悪意をもつて本件土地を買受けたものでない限り被控訴人の右時効取得につき登記が欠缺していることを主張するについての正当な利益を有する、民法一七七条にいう「第三者」にあたるものといわなければならない。

(三)  被控訴人は、控訴人三瓶と同佐々木の前示の本件土地買受取得は、本件係争地に関する限り、被控訴人に対する背信的悪意をもつてなされたものであると主張する。よつて案ずるに、

1  〈証拠〉を総合すれば、次の各事実が認められる。

(1) 控訴人佐々木は、被控訴人所有の旧九番四の土地に隣接する函館市大縄町九番の二の土地を昭和二九年七月三〇日に控訴人塚田から買受けて右土地に木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅を建てたが、この建物もその後の増築で本件土地のうち本件係争地以外の部分に侵出したので、昭和三二年五月頃控訴人塚田から本件土地全部を買つてくれと言われた。控訴人佐々木は、本件係争地以外の部分だけなら買つてもよいが、被控訴人所有の本件建物の建つている本件係争地までも含めて買うことはできない、と言つて控訴人塚田側の申込を断つた。その際、控訴人佐々木は、控訴人塚田に頼まれて、被控訴人に対して、本件建物が本件係争地上にはみ出しているから、控訴人塚田からこれを買つてくれと言つたか或いは本件建物のうち本件係争地上に在る部分を収去して本件係争地を控訴人塚田に明渡すようにと言つた。これに対し、被控訴人は「本件建物は、自分が昭和二四年に控訴人塚田から買つた九番四の土地内に建つている。」と反論して、そのままとなつた。なお、控訴人塚田から被控訴人に対して、本件係争地の地代相当損害金を請求したことは一度もない。しかし控訴人塚田は、控訴人佐々木からは、遅くも昭和四一年頃以降は、本件土地のうち本件係争地以外の部分の地代の支払を受けている。

(2) 他方、控訴人三瓶は、かねて旧九番四の土地の北側に隣接する函館市大縄町一一番二の土地上(別紙図面(一)でAと表示した場所)に販売用のプロパンガスボンベなどを収納する倉庫を所有していたが、昭和四七年になつて右倉庫敷地が近く函館市に道路用敷地として買収されることになり、右倉庫を収去して他に移転しなければならないことになつたので同年七月頃被控訴人に対し、その所有の旧九番四の土地の北側の三角帯(別紙図面(一)で「三角地帯」の表示の部分)の空地数坪を借受けたい旨申入れたところこれを被控訴人に拒否された。その後、控訴人三瓶は、函館市役所に所用で赴いた際、市役所の職員から、控訴人塚田所有名義の本件土地があることを知らされたので、早速控訴人塚田の所有地を管理している訴外山田一義に対し、本件土地のうちの係争地部分を売つてくれと申込んだところ、本件係争地には被控訴人所有の本件建物がはみ出して建てられているので本件係争地は被控訴人に買つてもらいたいと思つているとの理由で一応申込を拒まれた。しかしその際山田は控訴人三瓶に対して、被控訴人と控訴人佐々木との間に円満に話しをつけて、本件土地全部を買つてくれるなら売渡してもよい、と言つた。

(3) そこで、控訴人三瓶が、この話をかねて親しくしていた控訴人佐々木に持ちかけて相談したところ、同人もこれに同調したので、同年八月再び被控訴人方に赴き、被控訴人に対し、先ず本件係争地のうち、本件建物玄関前等の空地を貸してくれと申込み、被控訴人にこれを拒否されるや、それでは本件土地は控訴人塚田の土地だから、控訴人三瓶、同佐々木と被控訴人の三名で控訴人塚田からこれを買求めることにしたいがどうかと提案をした。これに対し被控訴人は、「昭和二四年に九番の四の土地を控訴人塚田から買い、本件建物を現在位置に建築して以来二〇有余年経つているので応じられない。」とか或いは「大縄町六番の二という土地は実在しない。本件建物の建つているところは自己の所有する大縄町九番の四の土地であるから、自分としては買う必要がない。」とか或いは「本件建物が、かりに右六番の二の土地にかかつているとしても、かかつている土地を買う権利は自分にある。右土地の買受人の中に控訴人三瓶を入れることはできない。」とか述べて控訴人三瓶の提案を拒否した。

(4) そこで控訴人三瓶は、同佐々木とはかり、更に被控訴人との折渉を重ねる糸口をつかむという意味合もこめて、右控訴人両名で被控訴人を除外して本件土地を買受けることを画策し、控訴人三瓶が前記山田に対して、被控訴人が恰も、本件建物は自分の所有地旧九番四の土地上に建つており、本件土地を買う必要も意思もないという態度一点張りであるかのように申向けて、前記山田を説得し、結局同年九月一一日頃右控訴人両名だけで控訴人山田から本件土地を坪あたり金四万円の計算で代金一〇〇万円で買受けることにし、同年九月一九日控訴人塚田に右代金を全部支払つて同日受付で本件土地につき持分各二分の一とする所有権請求権仮登記を経由した。

(5) その頃控訴人佐々木は、被控訴人に対して、本件土地を右控訴人の両名が控訴人塚田から買つたことを通告した。これに驚いた被控訴人は、早速、山田に対して、本件土地は自分に売つてくれと頼んだところ山田はすでに右控訴人両名に売つてしまつたので、駄目だと言つたが、被控訴人のために、右控訴人両名に対して、被控訴人と話し合つてやつてくれ、と頼んだ。

(6) それで同月二〇日頃控訴人佐々木、控訴人三瓶、被控訴人の三名は、控訴人佐々木宅に集つて、話し合つたが、その際、右控訴人両名は、本件土地は当然に右控訴人両名の所有になつたことを前提として、本件土地のうち本件係争地以外の部分と本件係争地のうち別紙図面(二)においてハ、ニの両点を結ぶ直線に沿つて幅約三尺の部分は控訴人佐々木の所有とし、本件係争地のうち、控訴人佐々木が取得する右の部分を除いた約一〇坪は控訴人三瓶の所有とするが、右の控訴人三瓶所有部分と被控訴人所有の九番の四の土地のうち北側の三角地帯の部分約六坪とを交換してほしいと、被控訴人に申込んだ。被控訴人は、控訴人三瓶が交換によつて取得する土地を右三角帯部分の北端から五メートルのところで切つてくれれば――その結果控訴人三瓶が交換で取得する土地は約四坪に減歩する――これに応じてもよいとの態度を示し、右控訴人両名もそれを承諾したが、その翌日被控訴人は、その態度をひるがえして、右控訴人両名に対し右交換は止めにすると通告した。

(7) その後、同年一〇月右控訴人佐々木は、被控訴人に対して、本件係争地を買うか、若し買わないなら、本件建物のうち本件係争地上に在る部分を収去して、本件係争地を明渡せ、と要求したので被控訴人は、同年一〇月二六日函館地方裁判所に対し本件係争地が被控訴人の所有であることを前提とする本訴を提起した。それで、控訴人三瓶、同佐々木の両名は、同年一一月九日付で本件土地につき右仮登記に基づく所有権移転の本登記を経由した。

2  以上の事実が認められ、〈証拠〉はたやすく措信し難く、他に前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

3  以上1の(1)ないし(7)の事実によれば、控訴人ら三名は、いずれも、本件土地の前記売買の際に、被控訴人が少くとも二十数年も前に、控訴人塚田から土地を買受け、別紙図面(二)記載の位置に本件建物を建築所有して、家族と共にこれに居住し本件係争地を、二十数年間に亘つて継続して占有してきた事実、即ち被控訴人のため本件係争地所有権の取得時効が完成するに足りる事実関係の存することを知悉しており、被控訴人が本件係争地を自己の所有として強く主張していることも充分に知つていたこと、しかるに、控訴人らは、本件土地全部が登記簿上、控訴人塚田の所有名義となつているのを奇貨として、控訴人三瓶としては、別紙図面(一)でAと表示した場所にあつたその営業用プロパンガスボンベ収納用の倉庫の移転先として、先ず本件係争地の所有権を取得のうえ、その一部と被控訴人所有の九番四の土地のうち北側の三角地帯の空地部分とを交換して右三角地帯空地部分を取得するため若しくは、右の交換が実現できない場合は、端的に本件係争地の所有権を取得するために(控訴人三瓶は、原審及び当審の本人尋問において、本件土地を買受けた目的は、本件係争地のうち被控訴人所有の本件建物の玄関前と横の空地約二坪の場所にプロパンガスボンベ収納用の倉庫を建築することにあつて、被控訴人に対し、本件係争地上に存在する本件建物部分の収去を求める意図はなかつた旨供述するが、前掲乙第六号証の一、本件建物の裏側の写真(昭和四九年五月一九日撮影)であることにつき争いない乙第六号証の三に弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人所有の本件建物の玄関先及び横の空地はわずかしかないうえ、控訴人三瓶のように一般消費者にプロパンガスを販売する事業を営む者が容器置場、貯槽等の施設を設けるときは、そのプロパンガスの危険性に鑑み、住居用の建物から一定の距離をとることとされているから――液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則第六条参照――被控訴人所有の本件建物の玄関先及び横の空地に主務官庁の許可を得て適法に前記のごとき販売施設を設け営業を継続することができるかどうかについて多大の疑問があるから、控訴人三瓶の前記供述はたやすく措信し難い。)、控訴人佐々木としては、本件土地のうち同控訴人の所有する建物が一部にはみだしていた本件係争地以外の部分を取得するのは同控訴人にとつて勿論有益であるが、本件係争地については、特にこれを必要とするような事情がなかつたのに、控訴人塚田側が本件係争地を含めてでなければ本件土地を売らないという態度をとつたことと、親しくしていた控訴人三瓶の本件係争地取得の望みを叶えてやるために、また控訴人塚田側としては、本件係争地を売つてくれという者が現われた機会に、本件土地全部を買つてもらうことにより、より大きな対価を入手せんがために、本件土地の前記売買をしたものと推認され、且つ控訴人らは若し被控訴人が他日本件土地の買主から、本件建物のうち本件係争地上に在る部分の収去と本件係争地の明渡を求められるようなことになれば、被控訴人の長年の生活の根拠が根底からゆさぶられてしまうような重大な結果になることを充分認識しながら、本件土地の前記売買をしたものと推認されるのであつて、前記売買のうち、本件係争地に関する限りは、控訴人三瓶、同佐々木の両名は、被控訴人に対する関係上、背信的悪意をもつて控訴人塚田からこれを買受けたものというべきである。

被控訴人が控訴人三瓶からの、本件土地の共同買受の提案を拒否するに際して、前示1の(3)で判示のように言つたとしても、それは毫も右の判断の妨げになるものではない。蓋し、被控訴人は、当時すでに本件係争地所有権を時効取得していたものであり、そうである以上、前記判示のとおり言つたとしても、これをとがめ立てする余地はなく、それによつて控訴人三瓶、同佐々木両名が本件土地のうち本件係争地をも買受けたのを正当化しうるものではないからである。また、前示1の(6)の事実があつたとしても、それは前示売買がなされたあとのことであつて、これによつて前段末尾に示した判断を覆すことはできない。要するに、前示1の(1)ないし(7)に判示の一連の事の経過を直視するならば、被控訴人は、たまたまその所有にかかる九番四の土地の前記三角地帯空地部分を控訴人三瓶に、同控訴人の営業用プロパンガスボンベ収納のための倉庫の移転先として目をつけられたことに端を発して、本件紛争の渦中にまき込まれて、本訴を提起するに至つたものというべきであつて、前段末尾に示した判断を動かすことは、被控訴人に酷な結果を招来するものであつて、忍び難いところであり、右判断を右左しなければならぬような事情は証拠上、他に認められない。

4  右のとおりであるから、本件係争地に関する限り、控訴人三瓶及び控訴人佐々木の両名は、被控訴人によるその所有権の時効取得の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有するところの民法一七七条にいう「第三者」にあたるものということはできない。

三してみれば、被控訴人は、本件係争地の所有権を時効によつて取得したものであることを現に本件土地の登記簿上所有名義人である控訴人三瓶、同佐々木の両名に対して対抗しうるものであるから、右控訴人両名に対し、本件係争地即ち別紙目録記載の土地についての右控訴人両名名義の所有権移転登記の抹消登記手続を求める権利を有するものといわなければならず、また、右時効完成当時の本件係争地の所有者であつた控訴人塚田に対し、昭和二四年七月八日に遡つてその効力を有する前記時効取得を原因として、本件係争地即ち別紙目録記載の土地についてその所有権移転登記手続を求める権利を有するものといわなければならない。

四よつて、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないから、民訴法三八四条一項に基づいて本件各控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

別紙

目録

函館市大縄町六番の二宅地100.43平方メートル(即ち本件土地)のうち別紙添付図面(一)のイロハニイを順次結んだ直線内の部分39.42平方メートル(斜線部分即ち本件係争地)

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